雪踏み分けて 君を見むとは
わすれては 夢かとぞ思とふ 思ひきや
雪踏み分けて 君を見むとは
『君』とは、惟高(これたか)親王をさす
次期天皇の有力候補だったが、親王の母は紀氏(きのし)出身で、当時最も権力のあった藤原氏の娘の皇子が皇太子となった
しかし次期天皇が決まった後も、惟高親王は身の危険を感じていたようだ
山里などに身を隠すように暮らしたこともあった
後に伝説として山の民から、木地師(きじし)の祖と崇められたのもそのせいでもあっただろう
山々を転々とする木地師の暮らしは他の人々からは、はみ出し者 と扱われたかもしれない
同じく中心からはみ出してしまった親王に同情や共感を寄せたのかもしれない
この歌の作者の在原業平の妻も紀氏の出身だった
業平は惟高親王より20余り年上であるが、既に臣籍降下しており、親王に仕えて狩りのお供などもした
業平も親王の境遇を自身のものと重ね合わせていたのだろう
雪深い山里まで親王を訪ねた時の驚きと同情が伝わってくる
・・御出家ののちは比叡山の麓、小野というところに引きこもり給ひし・・小野にまうでたるに、比叡の山の麓なれば雪いと高し・・
忘れては 夢かとぞ思ふ 思いきや
雪踏み分けて 君を見むとは