古歌集

万葉集・古事記・百人一首・伊勢物語・古今和歌集などの歌の観賞記録

峨眉山月の歌

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峨眉山月(がびさんげつ) 半輪(はんりん)の秋

影は 平羌江(へいきょうこう)の水に入りて流る

夜 清溪(せいけい)を発して 山峡に向かう

君を思えど見えず 渝州(ゆしゅう)に下る

                  李白

李白は、701年生まれの唐代の詩人だ。

今では詩仙と仰がれるが、生前は流転の人生を送った。

峨眉山月の歌は、若き李白が長江上流の故郷・清溪を夜に出発して下流の山峡に向かう様子を歌った歌。

三千メートル級の峨眉山に秋の半月が見え隠れし、月光を水面に映しながら船は渝州へと進んでゆく。

若き日の希望・気概・野望を乗せて長江を下った。

唐の都、長安玄宗皇帝に詩人として仕えた時期もわずかにあった。

おそらくその頃に唐の官僚として活躍していた阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)とも親交があった。

阿倍仲麻呂が698年生まれなのでほぼ同年代だ。

仲麻呂は19歳で遣唐使船に乗り長安へ。

科挙に合格し官僚として30年余り朝廷に仕え、ついに帰国の決心をする。

送別の宴にて仲麻呂が詠んだ歌が百人一首でも知られる

天(あま)の原 ふりさけ見れば 春日(かすが)なる

     三笠の山に 出(いで)し月かも

この歌にも月が出てくる。

故郷と月が結び付くイメージは、李白の詩からのインスピレーションを受けたかも知れない。

李白は、生涯で約千首の歌を作り、その内の300首に月が登場するという。

 

最後に故郷と月を詠んだもう一首。

 

『静夜思(せいやし)』

床前(しょうぜん) 月光を見る

疑うらくは これ地上の霜かと

こうべを上げて 山月を望み

こうべを低(た)れて 故郷を思う

寝つけぬ夜に月の光を感じ、

霜がおりたみたいに真っ白に光っている。

見上げると山の端に掛かる月があり、

故郷を想い自然と涙がこぼれる(私訳)

 

漂泊の詩人、李太白。