古歌集

万葉集・古事記・百人一首・伊勢物語・古今和歌集などの歌の観賞記録

2019-01-01から1年間の記事一覧

都忘れと 名づくるも憂し

いかにして 契りおきけむ 白菊を みやこわすれと 名づくるも憂し 順徳天皇 順徳天皇の父、後鳥羽上皇は幕府倒幕を謀って承久の乱を起こした しかし天皇方は幕府方に破れ、乱に参加した順徳天皇も父帝とともにそれぞれ配流となった 後鳥羽上皇は隠岐の島ヘ 順…

真葛原 なびく秋風

真葛原(まくずはら) なびく秋風 吹くごとに 阿太(あだ)の大野の 萩の花散る 詠み人しらず ツルを旺盛に延ばして群生する葛の葉を揺らす秋風が阿太(奈良県阿田)の萩の花を散らす… 秋になると自然に口づさみたくなる歌 葛原に「真」をつけることで下につく言葉は…

朝けの風は たもと寒しも

秋立ちて 幾日(いくか)もあらねば この寝ぬる 朝明(あさけ)の風は 手本(たもと)寒しも 安貴王(あきのおおきみ) ほんの数日前までは暑くて寝苦しかったのに、ふいに明け方の風の寒さに目が覚める 夏の空気から秋のそれへと切り替わった瞬間に感じる繊細な変化…

二人行けど 行き過ぎがたき

二人行けど 行き過ぎ難き 秋山を いかにか君が 独り越ゆらむ 大伯皇女(おおくのひめみこ) 大伯皇女は伊勢の斎宮だった 弟の大津皇子は自らに迫り来る身の危険を感じ、はるばる山を越えて姉の元を訪れた 姉弟の父は天武天皇、母は大田皇女 天武天皇が崩御して…

家にあれば 笥に盛る飯を

家にあれば 笥(け)に盛る飯(いひ)を 草枕 旅にしあれば 椎(しひ)の葉に盛る 有間皇子(ありまのみこ) この歌は、有間皇子が謀反の罪によって白浜の方へ護送される途中に歌った辞世の句の一首 ~家であれば器に盛られる食事も旅であれば椎の葉が器か… 旅は、現…

藻塩たれつつ 侘ぶと答えよ

わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ 侘ぶと答へよ 在原行平 ~たまたま私の事を聞いてくる人があったなら、須磨の浜辺で塩でも作りながらしょんぼりしているよと答えておくれ~ 在原行平は、業平の母違いの兄で、どちらも阿保親王の子でありな…

夏野の草を なづみ来るかも

父母に 知らせるぬ子ゆえ 三宅通(みやけぢ)の 夏野の草を なづみ来るかも 万葉集巻第13より ~父母にはまだ知らせていない娘ですから、三宅村の生い茂る夏草の道をかきわけて通って行くのです(私訳)~ この歌は、その前に長歌があり、その反歌として載ってい…

七夕つめに 宿からむ

狩りくらし たなばたつめに 宿借らむ 天の河原に 我は来にけり 伊勢物語、惟喬(これたか)親王の伴をして在原業平らが狩りで天の河(現在の大阪府枚方市天野川)までやって来た 親王は業平にこれを題材にした歌を所望した そうして作った歌としてとりあげられて…

禊ぞ夏の しるしなりける

風そよぐ ならの小川の 夕暮れは 禊ぎぞ夏の しるしなりける 藤原家隆 …涼やかな風の吹く、ならの小川の夕暮れ時は、まるで夏越しの祓の行事だけが夏の名残のようである… 鎌倉時代初期の歌人家隆の、夏になれば必ず口づさみたくなる歌 夏越し祓えが行われる…

春されば 卯の花腐たし

春されば 卯の花腐(く)たし 我が越えし 妹(いも)が垣間は 荒れにけるかも 詠み人知らず 万葉集巻第十の中の、春の相聞(そうもん)の『花に寄する』に分類された歌 低木である卯の花の垣根を乗り越えながら通ったあの娘の家の垣根は今ではすっかり荒れてしまっ…

沢の蛍も 我が身より

もの思えば 沢の蛍も 我が身より あくがれ出ずる 魂(たま)かとぞ思ふ 和泉式部(いずみしきぶ) 和泉式部についてまず言われるのは、恋多き女性 実際はどうだったのだろう 実際のところ噂に違わぬ恋愛遍歴と、何にもまして女流歌人の第一人者といえる数々の明…

未だ渡らぬ 朝川わたる

人言(ひとごと)を 繁み言痛(こちた)み 己が世に 未だ渡らぬ 朝川渡る 但馬皇女(たじまのひめみこ) 但馬皇女とは、天武天皇の皇女であり、藤原鎌足の孫にあたる 万葉集巻第二の相問(そうもん)の中に採られている 情熱的な女性の恋の歌、三首 □ 秋の田の 穂向…

旅にまさりて 苦しかりけり

人もなき むなしき家は 草枕(くさまくら) 旅にまさりて 苦しかりけり 大伴旅人 大伴旅人は60歳を過ぎてから太宰師(だざいのそち)として筑紫へ2度目の赴任をした この赴任は藤原氏にとっての厄介者を遠ざける隠流(しのびながし)かともいわれる 筑紫には、愛…

世の中に 絶えて桜のなかりせば

世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし 在原業平 現在の大阪府枚方市辺りにあった渚院(なぎさのいん)に、惟喬親王達とともに狩りにやって来た時の歌 狩りといいながら、ほぼ桜を愛でながら酒を飲み交わし、和歌を披露しあって過ごしたよう…

花や今宵の 主ならまし

行き暮れて 木の下陰を 宿とせば 花や今宵の 主ならまし 平忠度(ただのり) 平忠度とは平家の公達で、後の源氏との合戦においては武将として戦った 和歌に優れ、戦う前に死を覚悟して辞世の句をしたためていた それが上記の歌 --旅に行き暮れて、桜の木の下…

桜の花の にほひもあなに

娘子(をとめ)らが 頭挿(かざし)のために 遊士(みやびを)の かずらのためと 敷きませる 国のはたてに 咲きにける 桜の花の にほひもあなに 伝 若宮年魚麻呂(わかみやのあゆまろ) 万葉集第八巻 春の雑歌より 乙女達や風雅な男達が、髪に挿したり蔓を輪にして巻…

わが身ひとつは もとの身にして

月やあらむ 春や昔の春ならむ 我が身ひとつは もとの身にして 在原業平 『伊勢物語』第4段より 伊勢物語自体の作者は不詳で、だいたい平安中期くらいまでに作成されたか 和歌を中心にその歌の背景の物語を短編の章にして、物語全体で、ある男の一生を綴った…

宮も藁屋も 果てしなければ

世の中は とにもかくにも ありぬべし 宮も藁屋も はてしなければ 蝉丸 (私訳)世の中はとにもかくにも変わりゆくもの。宮であろうと藁屋あろうと永遠のものはないのだから… これは能楽『蝉丸』の中で歌われている 『蝉丸』は世阿弥の作といわれる 物語は、醍…

行方も知らぬ 恋の道かな

由来の門(と)を 渡る舟人 かぢを絶へ 行方も知らぬ 恋の道かな 曽禰好忠 百人一首にも採られている歌 作者の曽禰好忠は歌の名手として知られていたらしく、好忠自身もその自信と誇りがおおいにあったようだ 好忠は丹後の国の役人だったことから人々から「そ丹…

迎へを行かむ 待つには待たじ

君が行き 日(け)長くなりぬ やまたづの 迎へを行かむ 待つには待たじ 軽大郎女(かるのおおいらつめ) 奈良時代頃までは、異母兄妹での結婚は認められていたようで、天皇の結婚にも幾例かみられる 母系社会の名残からか、子供達は各々の母親のもとで養育され監…

人には告げよ 海人の釣り舟

わたの原 八十島(やそしま)かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人(あま)の釣り舟 小野篁(たかむら) この歌は小野篁が隠岐の島へ一時的に流罪になった時の歌 小野篁はユニークなエピソードのある興味深い人物だ 最もユニークなのが、昼は官職には就き、夜は…

難波潟 短き葦の 節の間も

難波潟 短き葦の 節(ふし)の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや 伊勢 百人一首にも採られているこの歌は 伊勢 という女流歌人の作 時間の短さを干潟の芦の節と節の間の短さに例える 恨み言も歌になれば芸術に昇華する この時代の歌に難波の様子がいくつか登…

梅の花 散らすあらしの音のみに

梅の花 散らすあらしの 音のみに 聞きし我妹(わぎも)を 見らくし良しも 大伴駿河(するが)麻呂 リズム感のよい明るい歌 噂に聴いていたあのこに逢えて嬉しいよ それくらいの意味だろうが、その娘の噂が聞こえてくる様子を 『梅の花が散るほどの冬風(あらし)の…

君し踏みてば 玉と拾はむ

ーー 信濃なる 千曲の川の さざれ石(し)も 君し踏みてば 玉と拾はむ 詠み人知らず 万葉集14巻に「 東歌 」の中の『信濃国の歌』の一首 自然に口ずさみたくなる歌 詠み人知らずのこの歌は、口伝えでたくさんの人々が口ずさみ伝わっていくうちに言葉が選別され、…

雪踏み分けて 君を見むとは

わすれては 夢かとぞ思とふ 思ひきや 雪踏み分けて 君を見むとは 在原業平 『君』とは、惟高(これたか)親王をさす 惟高親王とは、文徳天皇の第一皇子だ 次期天皇の有力候補だったが、親王の母は紀氏(きのし)出身で、当時最も権力のあった藤原氏の娘の皇子が…

わが恋ふる妹はいますと人の言えば 

柿本人麻呂 が、『…妻の死にし後に、泣血哀慟(きゅうけつあいどう)(血の涙を流)して作れる…』長歌 と 反歌 ・・我妹子(わぎもこ)が形見に置ける みどり子の 乞い泣くごとに 取り与うる物し無ければ 男じもの腋(わき)挟み持ち 吾妹子と二人わが寝し 枕づく嬬…

海原は 鴎立ち立つ

大和には 群山(むらやま)あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙(けぶり)立ち立つ 海原は 鴎(かまめ)立ち立つ うまし国そ 蜻蛉島(あきつしま) 大和の国は 望国(くにみ)歌 古代、春先に村落の人々が村を一望できる丘に上って国讃(くに…

葛城高宮 わぎ家のあたり

つぎねふや 山代川を 宮上り わが上れば あおによし 奈良を過ぎ をだて 大和を過ぎ わが見が欲し国は 葛城高宮 我家のあたり 今から約1500年以上前、磐姫(イワノヒメ)が、夫の仁徳天皇の浮気( 当時の天皇は妻を何人か持つのが普通だったので浮気とは言えない…

割れても末に 逢わむとぞ思ふ

瀬を早み 岩にせかるる 滝川の 割れても末に 逢はむとぞ思ふ 第75代 崇徳天皇 歌が水の流れのように心地好くよく進む しかしこの作者は、後に怨霊として怖れられる事となる 作者には不幸で複雑な生い立ちがあった 崇徳天皇の祖父は、院政によって大きな権力…

萌えいづる春に なりにけるかも

石(いわ)激(ばし)る 垂水の上の さ蕨(わらび)の 萌え出づる春に なりにけるかも 万葉集 第8巻 1418 春の雑歌 志貴皇子のよろこびの み歌 志貴皇子は天智天皇の第7皇子で、母は越道君(こしのみちのきみ)のいらつめ という 越国とは現在の北陸以北辺りで大和朝…