未だ渡らぬ 朝川わたる
人言(ひとごと)を 繁み言痛(こちた)み 己が世に
未だ渡らぬ 朝川渡る
但馬皇女(たじまのひめみこ)
万葉集巻第二の相問(そうもん)の中に採られている
情熱的な女性の恋の歌、三首
□ 秋の田の 穂向きの寄れる 片寄りに
君に寄りなな 言痛(こちた)くありとも
…秋に実った稲穂が傾くように、私もあなたに寄り添いたい、人の噂がたとうとも…(私訳)
□ 後(おく)れ居て 恋ひつつあらずは 追い及(し)かむ
道の隈回(くまみ)に 標結(しめゆ)へ我が背
…一人残され恋しく思うくらいなら、いっそ追いかけます、だから私が道に迷わないように道に印をつけておいて下さいね…(私訳)
□人言を 繁み言痛み 己が世に
未だ渡らぬ 朝川渡る
…人の噂はうるさく耳に痛いがかまわない、あなたに会うためならに渡ったことのない朝川さえ渡りましょう…(私訳)
まっすぐな情熱をぶつけられた男性は戸惑ったかもしれない
お相手は、穂積皇子(ほづみのみこ)
但馬皇女が亡くなった後、穂積皇子の詠んだ歌
■ 降る雪は あなにな降りそ 吉隠(よなばり)の
猪養(いかひ)の岡の 寒からまくに
但馬皇女が眠る猪養の岡を眺めて歌った
情熱的な歌との対比で、より穂積皇子の虚しい寂しさを感じさせる