梅の花 散らすあらしの音のみに
梅の花 散らすあらしの 音のみに
聞きし我妹(わぎも)を 見らくし良しも
大伴駿河(するが)麻呂
リズム感のよい明るい歌
噂に聴いていたあのこに逢えて嬉しいよ
それくらいの意味だろうが、その娘の噂が聞こえてくる様子を 『梅の花が散るほどの冬風(あらし)の音』 に例えているところが万葉歌らしい
自然と生活 とが密接にリンクする
嵐で花が散って舞うようなワクワク感も伝わる
そして 「梅の花」 と 「我妹」 が重なってゆく
路(みち)の辺(へ)の いちしの花の いちしろく
人皆知りぬ 我が恋妻は
柿本人麻呂 歌集
古代から人々は他人の噂話を大変気にしてきた
道に咲くいちしの花のようにはっきりと人は知ってしまったよ、私の恋妻を
というような意味か
いちしの花とは何の花かはっきりとはしない
彼岸花はその候補の一つだ
『いちしろく』のしろく を 白く に当て嵌めてみると、現代でも 明白 とか 白日の下に晒す … などの使い方にあるように、古代の日本語の 『 シロ 』 も広い意味があったようである
いちしろく は後に 著しく と転じていったようだ
この歌は、「柿本朝臣人麻呂の歌集に出づ」として万葉集巻11に採られているが、柿本人麻呂歌集は全て人麻呂が作者なのだろうか
詠み人知らずの歌も含まれるともいわれる
そう思わせる素朴さがこの歌の魅力だ