古歌集

万葉集・古事記・百人一首・伊勢物語・古今和歌集などの歌の観賞記録

ちはやぶる 神代もきかず

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◽枕詞のちから・・・
 
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
       からくれなゐに 水くくるとは
                                                                     在原業平
 
百人一首で有名なこの歌だ
 
まず ちはやぶるってなに?と現代人は思う
ちはやぶるとは〈神〉にかかる枕詞だ
 
ただでさえ文字数に制限のある歌の中にわざわざ枕詞をいれる意味はあるのかと
 
けれど枕詞を使うことで、この歌にはよりいっそうの力強さがもたらされる
枕詞はもとから言葉に呪的な意味が込められている
 
『ち』は、いのち、いかづち、おろち、ちから…のように「霊」を表す
振る は魂振り(たまふり)からきていると思われ、「振る」 という行為によって古来より活力を高めたり再生させたりできると信じられてきた 
お神輿などを皆で担いで振ったりするのは中の神を振ることによりエネルギーを高める為ともいわれる
 
 
また、この歌には背景となる物語がある
 
在原業平とは平安時代初期の色男で、祖父は平城天皇で父は阿保親王
母は伊都内親王と大変高貴な生まれだったため後の天皇となるはずだった
しかし祖父などの失脚により皇族から出て在原という姓を名乗り本流から外れアウトサイダーとなる
 
天皇になれない人達が暗殺されずに生き延びる方法の一つがうつけもののふりをすることだ
業平が色好みといわれるのも生きのびる為の処世術だったかもしれない
 
そんな業平の恋の中で有名なもののひとつが藤原二条高子(たかいこ)との恋だ
高子も深窓の令嬢で後に天皇の妃となる
 
のちに妃となった高子の前で歌の名手の業平が紅葉の屏風を題材に披露した歌がこの歌だった
 
 
「からくれなゐに」は、真っ赤な情熱を指す
「…水くくるとは」は、そのままの意味は「まるで真っ赤なくくり染めをしたように竜田川が紅葉の葉で赤く染まった」
秘めたる意味として、『くくる』は水の下を潜る(くぐる) の意味もあるため、心の奥底に流れ続ける情熱 とも受け取れる
この歌は紅葉の情景だけを詠む面白みのない歌なのではなく、ただの屏風絵を歌った歌の中にも様々な意味が閉じ込められた歌だ
業平とはなんと風雅な人物なのか
 
 
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
      からくれないに 水くくるとは