古歌集

万葉集・古事記・百人一首・伊勢物語・古今和歌集などの歌の観賞記録

迎へを行かむ 待つには待たじ

君が行き 日(け)長くなりぬ やまたづの 迎へを行かむ 待つには待たじ 軽大郎女(かるのおおいらつめ) 奈良時代頃までは、異母兄妹での結婚は認められていたようで、天皇の結婚にも幾例かみられる 母系社会の名残からか、子供達は各々の母親のもとで養育され監…

人には告げよ 海人の釣り舟

わたの原 八十島(やそしま)かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人(あま)の釣り舟 小野篁(たかむら) この歌は小野篁が隠岐の島へ一時的に流罪になった時の歌 小野篁はユニークなエピソードのある興味深い人物だ 最もユニークなのが、昼は官職には就き、夜は…

難波潟 短き葦の 節の間も

難波潟 短き葦の 節(ふし)の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや 伊勢 百人一首にも採られているこの歌は 伊勢 という女流歌人の作 時間の短さを干潟の芦の節と節の間の短さに例える 恨み言も歌になれば芸術に昇華する この時代の歌に難波の様子がいくつか登…

梅の花 散らすあらしの音のみに

梅の花 散らすあらしの 音のみに 聞きし我妹(わぎも)を 見らくし良しも 大伴駿河(するが)麻呂 リズム感のよい明るい歌 噂に聴いていたあのこに逢えて嬉しいよ それくらいの意味だろうが、その娘の噂が聞こえてくる様子を 『梅の花が散るほどの冬風(あらし)の…

君し踏みてば 玉と拾はむ

ーー 信濃なる 千曲の川の さざれ石(し)も 君し踏みてば 玉と拾はむ 詠み人知らず 万葉集14巻に「 東歌 」の中の『信濃国の歌』の一首 自然に口ずさみたくなる歌 詠み人知らずのこの歌は、口伝えでたくさんの人々が口ずさみ伝わっていくうちに言葉が選別され、…

雪踏み分けて 君を見むとは

わすれては 夢かとぞ思とふ 思ひきや 雪踏み分けて 君を見むとは 在原業平 『君』とは、惟高(これたか)親王をさす 惟高親王とは、文徳天皇の第一皇子だ 次期天皇の有力候補だったが、親王の母は紀氏(きのし)出身で、当時最も権力のあった藤原氏の娘の皇子が…

わが恋ふる妹はいますと人の言えば 

柿本人麻呂 が、『…妻の死にし後に、泣血哀慟(きゅうけつあいどう)(血の涙を流)して作れる…』長歌 と 反歌 ・・我妹子(わぎもこ)が形見に置ける みどり子の 乞い泣くごとに 取り与うる物し無ければ 男じもの腋(わき)挟み持ち 吾妹子と二人わが寝し 枕づく嬬…

海原は 鴎立ち立つ

大和には 群山(むらやま)あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙(けぶり)立ち立つ 海原は 鴎(かまめ)立ち立つ うまし国そ 蜻蛉島(あきつしま) 大和の国は 望国(くにみ)歌 古代、春先に村落の人々が村を一望できる丘に上って国讃(くに…

葛城高宮 わぎ家のあたり

つぎねふや 山代川を 宮上り わが上れば あおによし 奈良を過ぎ をだて 大和を過ぎ わが見が欲し国は 葛城高宮 我家のあたり 今から約1500年以上前、磐姫(イワノヒメ)が、夫の仁徳天皇の浮気( 当時の天皇は妻を何人か持つのが普通だったので浮気とは言えない…

割れても末に 逢わむとぞ思ふ

瀬を早み 岩にせかるる 滝川の 割れても末に 逢はむとぞ思ふ 第75代 崇徳天皇 歌が水の流れのように心地好くよく進む しかしこの作者は、後に怨霊として怖れられる事となる 作者には不幸で複雑な生い立ちがあった 崇徳天皇の祖父は、院政によって大きな権力…

萌えいづる春に なりにけるかも

石(いわ)激(ばし)る 垂水の上の さ蕨(わらび)の 萌え出づる春に なりにけるかも 万葉集 第8巻 1418 春の雑歌 志貴皇子のよろこびの み歌 志貴皇子は天智天皇の第7皇子で、母は越道君(こしのみちのきみ)のいらつめ という 越国とは現在の北陸以北辺りで大和朝…

人づてならで 言ふよしもがな

今はただ 思ひ絶へなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな 平安中期の貴族 藤原道雅 の作 溺愛する娘、当子内親王と道雅との恋の噂を耳にした三条天皇は、これに激怒し二人の仲を裂いた 一切 逢えなくなってしまった当子内親王にせめて、「この思いを断…

わが心 慰めかねつ 更級や

わが心 なぐさめかねつ 更科や をばすてやまに 照る月を見て -― 読み人知らず 長野県更科地区は月の名勝でも知られている 姨捨ての伝説は平安の昔から伝えられ、古今和歌集に採られたこの歌は松尾芭蕉をはじめ後世の人々に多大な影響を与えてきた なぜこの…

さねさし 相模の小野に燃ゆる火の

ヤマトタケルとオトタチバナヒメ さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中(ほなか)に立ちて 問ひし君はも これはヤマトタケルの妻オトタチバナヒメが歌ったもの タケルとヒメ達一行は東の方の大和朝廷に服従していない者達を服従させるための旅をしていた …

あまの原 ふりさけ見れば

□ 数奇なる運命 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出し月かも -阿倍仲麻呂-- 阿倍仲麻呂とはのちの陰陽師として有名な安倍晴明一族のご先祖様のひとりといわれる仲麻呂は若くして優秀だったため遣唐使に同行し、当時の最先端の国・唐の都・長安へ…

ちはやぶる 神代もきかず

◽枕詞のちから・・・ ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 在原業平 百人一首で有名なこの歌だ まず ちはやぶるってなに?と現代人は思う ちはやぶるとは〈神〉にかかる枕詞だ ただでさえ文字数に制限のある歌の中にわざわざ枕詞を…